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地方公務員の労働基本権について 

1 地方公務員の労働基本権について

  憲法28条は、「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。」と規定しています。まず、一般に労働者にはいわゆる労働3権(団結権・団体交渉権・争議権)が憲法上保障されているというのが大原則です。

  その大原則を前提としつつ、公務員の場合には全体の奉仕者という側面から例外的に労働3権の一部につき制限が定められていますが、例外的な定めですから限定的・厳密に解釈運用される必要があります。まず、第1に、国家公務員と地方公務員とをごっちゃにして単に「公務員」として議論するのは間違いです。第2に、「一般の行政職員」と言葉の使用法に問題がありますが、いわゆる「単純労務職員」とを区別して議論しないのも間違いです。

2 地方公務員法37条1項本文には、「職員は、地方公共団体の機関が代表する使用者としての住民に対して同盟罷業、怠業その他の争議行為をし、又は地方公共団体の機関の活動能率を低下させる怠業的行為をしてはならない。」との定めがありますが、これは、憲法28条が保障する労働3権のうち、「争議権」だけが認められないとしたものにすぎず、団結権や団体交渉権を認めないものではありません。

3 次に、地方公務員の中でもいわゆる「単純労務職員」の場合、民間企業にも類似の事務、事業があることもあり、公共的性格は有するものの、労働基本権の上ではできる限り民間労働者に近い取扱いをすることが望ましいこととされています。したがって、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務するという見地から、争議行為を行うことは全面的に否定されますが(地公労法11条1項、同法附則5条)、団結権については民間労働者と同様に労働組合法に基づく労働組合を結成し、加入することができます(地公労法5条1項、同法附則5条)。また、この組合は当局と団体交渉を行って団体協約(労働協約)を締結しうる点でも民間の労働組合と同じです(地公労法7条、同法附則5条)。

4 また、一般の行政職員については、「争議権」が認められないことは同様ですが、団結権については、地方公務員法に基づく「職員団体」を組織することができるとされ(同法52条1項)、団体交渉権については、協約を締結することはできないものの当局と交渉することはできるとされています(同法55条2項)。そして、「職員団体」の団結権も民間労働者の団結権もその基礎は同一であり、実定法上はいずれも憲法28条に基づくもので、これを具体化するに当たり、民間の労働者の場合は労働組合法により、また一般の行政職員の場合は地方公務員法によるとしているのです。

5 そして、一般の行政職員の場合、職員が「職員団体」の活動を行うことは、憲法28条によって保障された権利であり、当局がこれを妨害するようなことがあってはならないことは当然のことです。それを規定したのが、地方公務員法56条で「職員は、職員団体の構成員であること、職員団体を結成しようとしたこと、若しくはこれに加入しようとしたこと又は職員団体のために正当な行為をしたことの故をもって不利益な取扱を受けることはない。」と明記されています。これは、民間の労働組合の場合に、労働組合法7条でいわゆる不利益取扱いなどを不当労働行為として禁じているのと同様の規定であり、職員団体の結成権を保護するために法律の明文で規定されたものです。さらに、職員の経済的権利を職員団体の面からさらに強く保障するもので、職員が団結して当局と交渉することでその権利を保護しようとしているのです。また、使用者が勤労者の団結に不当な干渉を行ってはならないことは、近代国家における基本的原則であり、まして地方公共団体の当局は法令を実施し、公益を実現する立場にある者であるから、なおさらそのようなことがあってはならないのです。

6 給与条例主義について

  地方公務員法24条6項は、「職員の給与、勤務時間その他の勤務条件は、条例で定める。」と規定していますが、その趣旨は、2つあります。まず、その1は、当然のことながら、職員の給与については住民自治の原則に基づいて住民の同意が必要であり、議会が団体意思として制定する条例によってこの同意が与えられるという点ですが、むしろ大事なのは、その2の、「職員に対して給与を保障する」ということです。つまり、職員の労働基本権は一定の制限を受けていますが、そもそも労働基本権は、労働者の勤務条件(労働条件)を保障するための権利であり、団結、団体交渉および労働の供給の停止(ストライキ)を背景として勤務条件の維持向上を図ることを目的としているところ、公務員はその地位の特殊性に基づいて労働基本権が制限されているため、いわばその代償措置として法律や条令という実定法による勤務条件の確定、公的な権威による勤務条件の保障がなされているのです。

  したがって、給与条例主義の本来の趣旨からすれば、住民自治の原則の名のもとに議会が職員の給与をどうにでも決められるというのはおかしなことで、労働基本権が一定程度制限されている公務員だからこそ、その代償措置として条例によって適正な勤務条件を保障されるべきなのです。使用者としての市長が一方的に職員の給与を引き下げるような事態があっても、職員側としては、ストライキなどの争議行為はできないこととなっているのですから、その代わりに市長の暴走を議会が条例で止めるというのが、もともとの給与条例主義の趣旨なのです。そのような本来の趣旨を理解せずに、市議会が「給与条例主義」の名のもとに暴走しているのが、鎌倉市の現状であり、法律の想定しない事態に対して、神奈川県労働委員会を始め、対応に多大な労力を要しているのが実情です。

7 おわりに

  もともと、地方公務員と住民は敵対関係にあるものではなく、住民自治のもとで、職員が行政サービスの円滑な実施を安心して進められるように、住民が自分たちの職員の労働条件を保障してあげるのが本来の給与条例主義の趣旨です。いわゆる公務員バッシングにより職員の労働条件を切り下げ、職員のやる気を失わせることが果たして行政サービスの向上につながるのでしょうか。本当に住民とともに鎌倉市のことを大事に考えて仕事をしたいと願っている職員をことさら攻撃するような市議は、果たして正当に住民の利益を代弁しているといえるのでしょうか。それは、単に公務員バッシングをすることで選挙に向けたパフォーマンスをしているだけで、本当の鎌倉市政を考えているとはいえないのではないでしょうか。

        鎌倉市事件弁護団

        弁護士 井 上  啓